『第738話』 【ポジティブリスト】残留農薬、規制を強化

すべての農薬を対象とし、世界的に最も厳しく食品中への農薬残留基準を設定したポジティブリスト制度が5月にスタートした。これに対して、これまでの制度はネガティブリストといって、250種類の農薬と33種類の動物用医薬品などについて基準を設定していた。それに含まれず、日本以外で農薬として使用されている化学物質には規制がなかった。また農薬残留基準が設定されていない食品もあった。

食品中の残留農薬の規制を強化するきっかけは5年前、中国青年日報に中国国内野菜の47.5%で残留農薬が検出されたという記事が掲載されたことだった。その後、中国政府が調査したところ、中国国内流通野菜の約50%で残留農薬基準を超え、多数の中毒患者が発生していることが判明した。翌年、日本に輸入されている中国産冷凍ホウレンソウの約7%がクロルピリホス、パラチオン、ディルドリンといった農薬で汚染され、最高で基準値の250倍という高濃度のものがあることが分かった。

食品の安全をいかにして確保するか。厚生労働省が検討した結果、新たな視点に立って食品衛生法が改正され、ポジティブリスト制度が始まった。

ポジティブリスト制度が、世界的に最も厳しい規制制度といわれる理由の一つに「一律基準」がある。「残留農薬基準が定められていなかった農薬等」あるいは「残留農薬基準はあるがこの基準が設定されていない食品」について、人体に影響を与えない許容量と国民の食品摂取量に基づいて専門家が検討し、一律に基準をO.01ppmを超えてはならないとした。さらに残留基準を定めた農薬を大幅に増やして、799種類に設定している。

0.01ppmというのは、1キログラムの食品にわずか0.01ミリグラム含まれているという値。これほど多種の農薬について、大量の検体を分析できるかという別の課題がないわけではないが、こうした検査を技術的に可能にした背景には分析機器の発達がある。0.01ppmを測定するには、その十分の一から百分の一の量を正確に測定できなければならないからだ。しかし分析機器は高価で数千万円もし、分析に関する専門的知識を持つ人も養成しなくてはならない。安全を確保し、健康被害を未然に防ぐには多大な費用と絶え間ない努力がある。