『第6話』 飽食時代の陰で味覚障害が増加

飽食の時代といわれる現代は、あらゆる食品が手に入る。だからこそ年を取るとともに、意識して増やしたい食品、できるだけ減らしたい食品など取捨選択して食べることが可能なのだ。

ところが世の中の食事事情は貧しい。ちまたにあふれる加工食品の便利さが、栄養素の概念を変えつつある。

以前は小魚からはカルシウム、レバーやひじきからは鉄分をというように、食事を通してあらゆる栄養素を確保してきた。最近では鉄が足りないと思ったら、鉄○飲料、カルシウムならCA○○ドリンクと欲しい栄養素が食事をしなくとも簡単に手に入る。

このような飲み物や食べ物は機能性食品と呼ばれ、普通の食事をしていれば特に必要のないものである。しかしその手軽さゆえに、面倒な料理を作ることから遠ざかり、これに頼る傾向にある。

結果、食べ物に含まれる微量の亜鉛が不足がちになり味覚障害をおこす人が増えている。われわれが味覚を感じるのは、舌の表面にある味蕾(みらい)という味覚細胞の部分である。亜鉛はこの味覚細胞の若返りにかかわっている。そのため亜鉛が欠乏すると、まったく味がなくなったり、何も食べていないのに苦い、渋いなど最初に味覚に影響が出てくる。

また亜鉛は、核酸や遺伝子合成にも必要で、細胞が分裂増殖する成長期には、なくてはならない元素である。従って、味覚異常があれば、同時に生殖器の発育不全や骨の成長にも影響が出てくる。さらに脳の記憶をつかさどる海馬(かいば)という場所にも亜鉛は多く存在することから、記憶に必要な物質でもある。

亜鉛の豊富な食品としてカキ(貝)、小魚、かずのこ、卵黄、牛や豚などのレバー、ごま、チーズ、アーモンド、納豆、海藻、しいたけ、抹茶、緑茶などがある