『第13話』 アスピリンとはピリンにあらず

「アスピリンはピリンの一種」と思い違いしている人が多い。

アセチルサリチル酸というのが、アスピリンの本名だ。古くからヨーロッパでは、ヤナギの木の皮が解熱用民間薬として使われていた。その中に含まれるサリシンという物質が、この薬のルーツだ。

このサリシンから作るサリチル酸には、リューマチ熱の解熱作用があることが1875年に分かった。ただ、サリチル酸には皮膚の腐食作用もあり、これを抑えるためにアセチル基を合成したのがアスピリンだ。

サリシンはセイヨウナツユキソウ(ラテン名=スピラエ・ウルマリア)にも含まれていたことから、「天然でない」という意味の「ア」をつけてアスピリンと命名された。

ピリン系の薬物は、アミノピリン、アンチピリンといったものが代表的で、解熱鎮痛、炎症作用にも優れているが、副作用も強く、これら医薬品のアンプル剤で死亡する人もでた。またアミノピリンは、食物中の亜硝酸と反応して、発がん物質を生成することも分かり、現在は使用されていない。

一方アスピリンは、発熱時の体温を速やかに下げ、特に頭痛、筋肉痛、関節痛、月経痛、神経痛に有効だが、内臓痛には効果がない。

またアスピリンには出血時間を延長させるという作用もある。つまり血が固まりにくくなる。欧米ではこの作用を利用して、血栓症の予防にも使っている。しかし逆に、ビタミンK欠乏症や血友病、出血傾向のある患者には禁じられている。

また、まれではあるが、インフルエンザや水痘にかかった子供がアスピリンを飲んで意識障害やけいれんを起こし死亡するという、ライ症候群も報告されている