『第31話』 麻薬によく似た物質が体内に

人間の脳の中には麻薬と強力に結合する部分(受容体)があって、これが麻薬だけを選択して結合すると痛みを止めるなどの効果が表れる。

しかし、ケシの抽出物であるモルヒネのように、体外から入ってくる麻薬に対して、人間の脳はわざわざ受容体を用意していたのだろうか?そんな疑問から生体内の麻薬探しが始まった。

案の定、ここ十数年の間に約20種もの麻薬によく似た物質が生体内にあることが発見された。

人間が感情的になって興奮すると一時的に痛みを忘れていたり、マラソンランナーがある時点を境に苦しさがなくなり、そう快な気分になって走り続けることができる。

痛みや激しい運動、ストレスに対して人間の体は麻薬とよく似た物質を作り出す。その中の一つエンドルフィンは、お産が始まると徐々に多くなり、分娩(ぶんべん)時には通常の6倍にもはね上がる。分娩がいかにひどい痛みとストレスを伴うものかを物語っている。

エンドルフィンの元になる物質は、副腎(じん)皮質を刺激するホルモンにも変化する。体に大きなダメージを受ければ副腎皮質刺激ホルモンとなって生命を維持しようとし、精神的なダメージ、つまりストレスを受ければエンドルフィンとなる。人間がさまざまな刺激に対応できるのは、このような防御機構を備えているからだ