『第712話』 【老眼】調節能力の低下が原因

パソコンのディスプレーを見詰め続けている上に、冬になって部屋の湿度が低くなり、ドライアイが一段と進んで目が疲れやすくなっている。さらに、ここ数年はそれだけでなく、近くの物が確実に見えにくくなった。薬科大学の同窓会で27年ぶりに会った旧友たちと「おまえもか」と互いの老化を認め合い、「自分だけじゃない」などと安堵(あんど)している自分がこっけいに思える。老眼で老化を自覚する人も多いのではなかろうか。

老眼は老化現象の一つで、正常な生理現象である。昭和10年ころの日本人の平均寿命は50歳に達していない。その時代以前では、もはや老人といえる40歳を過ぎると自覚症状が出てくるために、老眼というような名がついてしまったのだろう。

老眼は、近くの物を見るときの調節能力が低下することによって起こる。早い人では30代後半から自覚してくるが、実は調節能力の低下は10代から始まっている。

網膜に像を結ばせるために、毛様体とチン小帯を使って水晶体の厚さを変えている。水晶体が最も薄くなるのは無限遠を見ているときで、5メートル以上先の物を見ているときは無限遠を見ている状態と思っていい。レンズの度は焦点距離の逆数に当たるジオプトリー(D)という単位を使って表す。水晶体の調節能力は、10歳では12Dで8.3センチ手前の物まで見えるが50歳では2Dで50センチとなり、手前の物がぼやける。ところが日本人は近視が多く、眼鏡を外すと近くの物が見えやすくなるので単なる疲れ目と思っている人も多い。

目の調節については一番外側の空気と接している角膜も重要な役割をしていて、光を屈折させている。角膜が傷つくドライアイは、見にくくする環境をつくることにつながる。

コンタクトレンズは、非常に高度な医療機器として取り扱われる高度管理医療機器だ。その理由は角膜に直接装着して使うからだが案外粗雑に扱われ、角膜を傷つけることによって失明という重大な障害につながることに無頓着な人が多い。

老眼だと思っていても重大な眼疾患が隠れていることがある。また老眼鏡は加齢によって作り替えていくことも必要になるので、眼科医に相談して目の健康に気配りしてもらいたい。