『第716話』 【インフルエンザ脳症】意識障害などに注意を

全国的に見るとやや遅いが、本県でもA香港型インフルエンザウイルスが検出され、インフルエンザの流行が拡大しつつある。

インフルエンザに罹患(りかん)して併発が心配される疾患に、肺炎とインフルエンザ脳症がある。昨年、インフルエンザ治療薬のリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)による副作用の可能性があるとして異常行動や幻覚などの神経精神障害が問題となったが、因果関係は明確にされなかった。その理由の一つにインフルエンザウイルスによって脳症が発生し、異常行動を起こすことがある。つまり抗ウイルス薬の副作用なのか、インフルエンザ脳症なのかを区別し難いということなのだ。

昨年11月、厚生労働省は「インフルエンザ脳症ガイドライン」を策定。発生因子の解明と治療、予防方法の確立に関する研究報告をまとめている。

インフルエンザ脳症は、主に5歳以下の乳幼児に発生する。急速に意識障害が進んで、1~3割が死亡するとされる。異常行動の実態は、それで子供を亡くした家族らの会「小さないのち」が2001年にまとめたアンケートによって明らかになった。

インフルエンザ脳症が疑われるポイントはけいれん、意識障害、異常言動で、明らかな意識障害があれば高次の医療機関に搬送する。けいれんといっても熱性けいれんを起こしていることも考えられ、その判断は専門医に任せるべきだ。保護者は▽いない人がいるといったり、人を正しく認識できない▽自分の手をかむなど、食物とそれ以外の物を区別できない▽アニメのキャラクターが見えるなどの幻視・幻覚を訴える▽ろれつが回らない▽急に怒る、泣く、大声で歌いだす-といった異常言動に注意してほしい。

熱性けいれんを繰り返している乳幼児でけいれんを抑えるジアゼパム座剤を使っていると、インフルエンザ脳症を隠ぺいしてしまう可能性がある。また疑われる症例で、ぜんそく治療薬のテオフィリンを使用すると症状が悪化するので控える必要がある。治療方法には抗ウイルス薬、副腎皮質ホルモン、γ-グロブリンの投与があるが、効果がなければ脳低体温療法などの特殊治療を行う。

ガイドラインの冒頭には、まだ完全なものではないと記されている。インフルエンザ脳症の全容が把握される日が来ることを期待したい。