『第718話』 【ぜんそく発作】室内の乾燥が悪化招く

昨年末に、母がぜんそく発作を起こした。夜間から早朝にかけて、せきがひどくなった。以前からアレルギーはあったが、ぜんそく発作を起こしたことはなかった。息ができないという連絡を受けて、すぐさま友人の医師に診てもらった。意識はほとんどなく、もうろうとし、唇は紫色になりチアノーゼ(酸素欠乏症)の特徴的な症状が現れていた。友人は診療所で応急処置を施した後、ほかの診療を中止し救急車に同乗して総合病院に搬送してくれた。「あれは危ない。死ぬかと思ったよ」と後で言われた。

ぜんそく発作が一番起きやすいのは春と秋だ。時間は夜間から早朝にかけて発生しやすい。気管支を広げたり狭めたりする調節は自律神経が行っている。自律神経には交感神経と副交感神経があって、交感神経が興奮すると気管支が広がる。従って、ぜん息の治療では気管支内に交感神経興奮薬を噴霧して気管支を拡張させる。そうすると気管支にかかる空気抵抗が下がって楽になる。一方、副交感神経は安静時に働き、興奮すると気管支が収縮する。睡眠時はこの状態になるので、夜間から早朝にかけて発作が起きやすいというわけだ。

交感神経ベータ受容体刺激薬やテオフィリンといった気管支拡張薬は対症療法で、根本的な治療方法ではない。ぜんそくは気管支粘膜に起こる慢性の炎症なので、炎症を抑える副腎皮質ホルモンを局所に噴霧する治療方法が中心になる。その炎症はダニの死がいやふん、ハウスダストなどによって起こるが、アレルギーを起こしている原因を見つけるのは難しい。

密閉状態で暖房を使う冬はダニの成育に適している。また換気不良で湿度が非常に低い。この環境は、ぜんそくを悪化させる要因をすべて含んでいる。特に乾燥した部屋にいると、気道粘膜から水分の蒸発が進む。水分の蒸発は気道粘膜表面から気化熱を奪うことになり、これらが刺激となってぜんそくを悪化させる。また乾燥して温度が低下した気道粘膜は抵抗力を失い、ウイルスの増殖を促す。こうして各種ウイルスの感染・増殖を招いて風邪をひきやすくする。密閉状態の部屋でストーブを使うと粘膜を刺激する窒素酸化物などの浮遊粉じん量も増えて、これがまた刺激の材料となる。こうしたことを念頭に室内の換気を見直してもらいたい。

母によれば、窒息状態にあっても意外と苦しくないのだそうだ。しかし、そんな感想を聞けるのも命あってこそ。十分に気を配ってほしい。