『第726話』 【傷の手当て】患部を洗い湿潤保とう

この連休中、日曜大工に励む人がいるかもしれない。しかし注意して作業に取り掛からないと擦り傷、切り傷を負うことがあるので気を付けたい。

今までは転んで擦りむいたり、カッターで手を切ったときは止血をして消毒薬を塗り、患部を乾かしてから傷口にガーゼを当てて包帯を巻くといったやり方が行われていた。それが間違っていたというのが、今の常識になりつつある。「細胞毒性があるので消毒薬は使用しない」「ガーゼは治癒を遅らせることになるので使わない」「傷口はどんどん洗う。縫合したときも洗っていい」と言ったら信じてもらえるだろうか。

傷口はよく洗ったら湿潤を保つために包装用のラップを当て、その上から軽く包帯を巻いておく。その後、においがしてくることがあるがそれは腐敗しているからで、化膿(かのう)や感染しているのとは違う。その証拠に、周りは赤く腫れず痛みもないはずだ。

傷口から出てくる黄色い浸出液には好中球、線維芽細胞、上皮細胞が含まれていて傷口を修復するために働くが、乾いてしまうとその働きが邪魔される。かさぶたは、これらが「ミイラ」になった状態だ。

包装用ラップが不安であれば、薬局で専用の被覆材を取り扱っているので事前に相談して用意しておくといい。かさぶたもできずに数日で治る。ただしラップで覆う範囲が傷よりも広いと、正常な皮膚がふやけた状態になる。これを浸軟といって、かゆみが出ることがある。防止するには、密封する範囲を最小限にとどめるのが秘訣(ひけつ)だ。やけどしたときも同様の治療法でよい。床ずれの治療もこの方法で行われていて、皮膚が引きつるケロイドが残らない。

この「湿潤療法」は40年以上前、イギリスで提唱された。日本でも20年前に紹介されたが普及しなかった。現在は簡便な被覆材が発売され、その効果が実証されている。しかし動物などにかまれた傷、大きな傷、深い傷、出血が止まらない場合は、医師の診察を受ける必要がある。また、既に化膿してしまった傷にも適さない。

軽微な傷は1週間あれば、だいたい治る。大きな手術でも抜糸は通常1週間後。つまり1週間で傷はふさがるのだ。人は自己再生能力を持っている。傷が完治することは、それを証明している。とはいえ、連休中はけがなど負わないようにしたいものだ。