『第727話』 【水虫】つめ白癬にパルス療法

ケラチンを主食とするかびがいる。皆さんがよくご存じの白癬(はくせん)菌だ。水虫、インキンタムシ、シラクモなどの原因菌で、白癬菌などのトリコフィトン属12種類をはじめ、計28種類の不完全菌類が水虫などの皮膚糸状菌症を引き起こす。

水虫などについては平安時代の書物にも、それらしき記載がある。古来、人々を悩ませてきたためか民間療法が数知れずある。しかし、これらは効果がないと考えた方がいい。水田に入る仕事が増えるころになると水疱(すいほう)ができてむずがゆくなることから、水田にいる正体不明の虫に刺されるのが原因として、江戸時代初めに「水虫」「田虫」という病名が付いたという。

細菌学が全盛の時代にあった1910年、頭部白癬の病巣部から白癬菌を分離し、日本で初めて真菌分類を確立したのが太田正雄氏だ。目の周りからほおにかけ、青色に茶色が交ざった色素細胞異常(あざ)ができる太田母斑の名付け親としても知られる。

ケラチンは皮膚、つめ、毛髪を構成するタンパク質で、アミノ酸の並び方が異なることで毛やつめの硬ケラチン、皮膚の角質層の軟ケラチンとなる。皮膚の角質層が生まれ変わる周期は若年層で約28日、加齢とともに遅くなって倍以上かかるようになる。つめは、指のつめで1カ月に約3ミリ、足のつめはその半分伸びる。つまり、つめが入れ替わるには指で半年、足では1年以上かかることになる。

抗真菌薬のグリセオフロビンの作用は白癬菌の成長を止める静菌的作用でケラチン中にも残留しにくく、皮膚やつめが入れ替わる年月以上服用する必要があった。

最近は、つめ白癬の治療ではイトラコナゾールのパルス療法が一般的になっている。1週間服用して3週間休薬し、これを1サイクルとして3回繰り返す。イトラコナゾールは血液中から薬物が消失しても皮膚やつめにとどまって殺菌する。以前は1日の投与量は200ミリグラムだったが、倍に増やすとつめの中の濃度が4~10倍に高まることが分かり、副作用の発現率も変わらないことから400ミリグラムになっている。この治療で、ほかの水虫なども治癒する。

しかし、トリアゾラム(睡眠導入剤)、シンバスタチン(高脂血症剤)、降圧剤などと相互作用があるので服用期間だけでなく、休薬期間中も注意が必要だ。また服用してもつめの濁り、肥厚、白色化などは新しいつめに入れ替わるまで残る。服用終了後も主治医から、しっかり経過観察を受けることが重要だ。