『第741話』 【アナフィラキシーショック】ハチに刺されて発症も

今年4月に医薬品の規格基準書である日本薬局方が改訂されて第十五局になった。長年、エピネフリンの名称で収載されてきた医薬品名が、本来あるべき名称のアドレナリンに変更された。

もともと両者は別物で、日本薬局方によると1901年に高峰譲吉が助手の上中啓三とともに牛の副腎髄(ずい)質から世界で初めて分離して結晶化に成功しアドレナリンと命名したのにもかかわらず、米国の圧力によってその名称は正式に使われずにきた。現在ではアナフィラキシーショックの治療に欠かせない医薬品となっている。

アナフィラキシーショックを発見したのは、フランスの生理学者アルフレッド・リシェとポール・ポルティエ。02年にイソギンチャクの触手から抽出した毒を犬に注射して数週間後、再び注射するとはるかに少ない毒量でもショックを起こすことを見つけた。本来なら免疫による防御機構が働くはずなのに機能しなかったので、ギリシャ語の「アナ」(ない)と「フィラキシス」(防御)から「アナフィラキシー」という造語が生まれた。

アナフィラキシーショックといえば、今年は身の回りでハチに刺されて医療機関に足を運んだ人の話をよく聞く。ハチに刺される事故が多いのは7月~9月。ハチが攻撃的になるのは8月下旬ごろからといわれ、普段から注意しておくことが重要だ。黒っぽい服、香水や整髪料の香りにも刺激されて攻撃するので、白っぽい服を着て、香水などはつけないことだ。花柄の服も避けた方がよい。

刺されてもアレルギーを持たない人であれば、針を抜いて抗ヒスタミンの軟こうを塗ればよい。しかし刺された所の赤みが増してきたり、血圧低下や呼吸困難で顔面蒼白(そうはく)となり、意識が混濁してくればアナフィラキシーショックの症状だ。通常、5~30分程度で発症し、救急車を呼んですぐに処置する必要がある。

では周りに人がいない状況で、アレルギーがある人はどうしたらいいか。米国では緊急用に、アドレナリンの自己注射キットが20年以上前から使われてきた。日本でも3年前にハチに刺されたときの対応として、大腿(だいたい)部に自己注射するペン型の注射キットが使用できるようになった。また昨年からは食品や薬物が原因となる場合も適応になった。このキットは保険適応外なので約1万5千円するが、心配な人は医療機関で相談してもらいたい。