『第742話』 【医薬品の製造現場】厳格な品質管理を確認

薬の話となると薬物治療に関する話題が中心になる。しかし薬事産業という視点から見ることも、本県の経済活性化のためにも重要なのではないだろうか。

県内には医薬品を生産している施設が12カ所ある。杏林製薬の能代工場では最終的な製品にまで加工した薬の出荷を今春に開始した。また輸血用血液製剤を供給する県赤十字血液センター(秋田市)、透析液などをつくるニプロファーマの大館工場、せきやたんの薬で知られる松田製薬(湯沢市)、第一ファルマテックの秋田工場(秋田市)ではバルクといって薬の基になる製品を出荷している。このほか酸素などの医療用ガスを製造しているところもある。

ニプロファーマ大館工場の主力商品であるダイアライザーは世界の約25%のシェアを占めている。ダイアライザーは人工透析装置の部品。トリアセテートなどで作った中空糸膜を数千本から1万数千本ほど束ねて筒状の容器に充てん、透析患者の血液中の老廃物を取り除く。

先日、杏林製薬の能代工場を見学してきた。一言で言えばすべてがクリーン。公害とは無縁で環境に優しいという印象を受けた。そして生産効率が高い。

工場内部は製造工程ごとに区切られ、IDカードがなければ出入りできない。靴下と衣服を脱ぎ、防じん服に着替え、手を消毒し、エアシャワーを浴びて工場内に入る。場内に入る前には工場長から「中にトイレはありませんので、お手洗いを済ませておいてください」と言われた。場内で防じん服を脱ぐことは許されない。衛生面への配慮、品質の確保が徹底されていた。

工場では風邪をひいたときなどに、たんを出しやすくするムコダイン(一般名L-カルボシステイン)を製造していた。1日の製造錠数は500万錠。県民全員が風邪をひいて1日3回服用しても、まだ十分に余る量だ。指で押し出して錠剤を取り出すPTP包装も作られており、そうしたものも手掛けていることを初めて知った。製造工程が異なる部屋に入るたび、その部屋の基準に適合した防じん服に着替えた。場外に出たときは、ほっとしたような気分になった。

今回の見学を通じて薬剤師が県民に自信を持って医薬品をお勧めするには、製薬企業と十分な信頼関係を築くために厳格な品質管理が行われている現場を自分の目で確認することも重要だと実感した。また本県の経済活性化のために、さらに製薬企業が進出してくれるよう微力ながらお手伝いしていくことも視野に入れたい。