『第755話』 【しめ飾り】生薬になる「ダイダイ」

きょう12月25日はクリスマス。先週末ぐらいから、玄関先にリースを飾っている家を見かけるようになった。その起源は▽古代ペルシャの王家の飾り▽北欧風習説▽古代オリンピックの勝者に贈ったオリーブの葉の冠-など諸説あって、はっきりしない。

冬でも葉の落ちない常緑樹のモミの木は永遠の生命を象徴し、木々から発散されるフィトンチッドは殺菌作用がある。魔よけに好都合だったことだろう。欧州でも日本と同様に見えない物、不可思議な現象に対する恐怖を払拭(ふっしょく)する手段として、縁起を担ぐことが行われてきたところが面白い。

クリスマスから数日もするとリースからしめ飾りに替わる。日本人は宗教心がないと言われようと、縁起を担ぐ方が重要なようだ。非難を受けようとも、この寛容さが日本人の良いところでもある。

しめ飾りには家が受け継がれていく願いを込めたユズリハ、後ろ暗いことのないように常緑性シダ類のウラジロ、そして真ん中には代々繁栄するようにダイダイを飾る。ダイダイの名前は、放っておくと実が数年間落ちず「代々」の実がつくことが由来といわれる。

ダイダイの成熟した皮を乾燥させると生薬の橙皮(とうひ)になる。学名はシトラスアランティウムと言ってヒマラヤが原産だ。古来、中国から伝来し胆汁の分泌を促進する作用があり、芳香性苦味健胃薬の原料として使われてきた。欧米でも胃腸薬として使われている。成分のd-リモネンには鎮静作用もある。

ダイダイの未熟果実を乾燥した生薬は枳実(きじつ)、あるいは枳殼(きこく)という。古代中国の薬物学書である「神農本草経」(しんのうほんぞうきょう)に収録されていて、やはり芳香性苦味健胃薬として使う。シネフェリンというアドレナリン受容体作動成分を含み、交感神経興奮作用があるので心疾患にも使われてきた。さらに貯蔵脂肪の燃焼作用と空腹中枢の抑制作用もあり、ダイエット食品として流通しているようだが科学的証拠は不十分だ。

縁起を担ぐのは、平穏無事を願う気持ちがあるからだ。年末にあたり、読者の皆さんの新年の健康を願いたい。