『第758話』 【薬の品質確保】長期処方は分割調剤で
大手菓子メーカーが期限切れの牛乳、生クリームなどを原料に使いシュークリームやケーキを製造販売していたことが分かり、「食の安全性」に関する危機管理意識が再び問われている。
平成12年6月、大手乳業メーカーの低脂肪乳などの製造過程で病原性のある黄色ブドウ球菌が増殖した結果、食中毒を訴える患者が発生。有症者数は14,780人に達し、例を見ない大規模食中毒事件に発展した。返品された製品を加工乳などに再利用していたことも発覚し、製造企業グループの解体・再編成を余儀なくされたことは記憶に新しい。業界団体の社団法人日本乳業協会担、13年に自主基準として「飲用乳の製品の再利用に関するガイドライン」を制定した。
50年が経過して記億が薄れてきた感はあるが、昭和30年には「森永ヒ素ミルク事件」が起きている。当時の発表では12,131人の被害者が出て、130人が亡くなった。乳質安定剤として使用していた第二燐酸(りんさん)ソーダが非常に粗悪で、これにヒ素が不純物として高濃度に含まれていたのが原因だった。被害者の親、国、森永乳業の三者の合意を基に昭和49年、同社が基金を拠出して「財団法人ひかり協会」を設立。恒久的な被害者救済活動を続けている。
さて医薬品の使用期限は、どうなっているかご存じだろうか。アンプルに封入された注射剤やワクチンであれば、最終有効年月日が明記されている。錠剤なども薬局に届けられた包装形態であれば使用期限が明記されている。OTC薬は原則、製造年月日から3年が期限だ。
薬事法では、一度この包装を解くと使用期限が切れ、製薬会社は品質を保証しなくてもよいことになっている。従って皆さんが服用している医薬品は、一部を除き大半が「使用期限切れ」ということになる。こうした根拠があるので、薬剤師は「のみ残した薬は廃棄してもらいたい」「湿気の多い所に保管しないでほしい」といった具合に保存法を説明している。
しかし90日分などの長期処方では、品質保持ができない事態が起こり得るのも事実。これを回避する方法として、何回かに分け調剤して薬を渡す分割調剤というやり方がある。費用が数十円掛かり増しになるが、薬の有効性や安全性を考えた場合、患者の理解を得て推進したい取り組みだ。