『第746話』 【脈圧】動脈硬化が進むと拡大
自動車のエンジンにはエキゾーストパイプ(排気管)がつながり、その先にマフラー(消音器)がついている。途中には触媒が備えられていて排ガス中の一酸化炭素、窒素酸化物などの有害物質を低減する。この排気装置がなければ、パンパンというエンジンの爆発音がそのまま出てしまう。また排ガスの脈動は触媒の処理能力に影響を与えるため、通過する排ガスの速度を一定に保つ必要がある。
一方、人の場合はどうだろうか。エンジンともいうべき心臓はドキドキと脈動している。動脈では脈拍を感じることができるが血液そのものは止まることなく、絶えず流れている。自動車のマフラーに当たる毛細血管や静脈ではほぼ脈動がなく、一定の早さで血液が流れている。こうした血流を作る役割は、心臓の左心室から出ている大動脈が担っている。
心臓から大動脈に流れ込んだ血液の六割はいったんためられ、四割がすぐに全身を巡る。その後、残りの血液が徐々に流れていく。この機能を「ふいご機能」と呼ぶ。しかし大動脈が固くなると、ためられる血量が三割程度にまで低下する。すると脈圧が大きくなる。脈圧とは、上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)の差。上が140、下が90であれば50ということになる。脈圧が大きくなる主な原因は動脈硬化だ。
脈圧が65以上あると、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中を発症する危険性が増すといわれる。さらに上の血圧が140以上だと動脈硬化が進んでいると考えた方がよい。ぜひ各年の健康診断の結果を比べてもらいたい。上の血圧が上がり、下の血圧が下がっているようなら要注意だ。
若い人であれば血管の障害があまり起きていないため、血圧を上昇させるホルモンの作用を抑えるACE阻害剤やARBといった降圧剤が有効だが高齢者には効きづらい。高齢者は血管が固くなっていて内容積が狭くなっているので利尿剤で血液中の水分を減らすか、またはカルシウム拮抗(きっこう)剤で血管を拡張させることが多い。ただし利尿剤を使うと血糖値や尿酸値が高くなりやすく、低カリウム血症になる恐れもある。服用している人は定期的に血液検査を受けてもらいたい。